教員コラム
【教員リレーコラム】第36回 岩本浩二「野球における投球障害肩の解明と理学療法治療に向けて」
投球障害肩とは投球の反復による肩関節への力学的ストレスが肩関節構成体である骨、関、節唇、腱板筋群および周囲筋群、関節包などを損傷させ、疼痛や投球能力の低下を引き起こす病態の総称です。
野球は我が国で親しまれているスポーツの一つであるため、その活動によるスポーツ傷害に至る頻度は高いのが現状です。
先行研究によると、この投球時の肩関節痛が原因で練習や試合に参加できない投球障害肩の発症率は、およそ30〜50%にも及ぶとされています。そのため、野球競技における投球障害肩は、青年期における身心の健全な発達、生涯の健康保持増進、医療費抑制などに支障をきたすとされ、個人および社会的問題であるとされています。
私たちはこの問題の改善および解決に貢献できるように研究活動をとおして、日々取り組んでおります。この投球障害肩の一つに投球動作時に肩関節内で上腕骨と肩甲骨とが骨衝突してしまう病態があります。この骨衝突には肩の腱板筋群損傷、関節唇損傷、上腕骨頭骨嚢腫など肩関節構造体の破綻からくる肩関節の不安定性が関与し、肩関節周囲組織の損傷や炎症を引き起こす原因となってしまいます。このことにより肩の複合的な病態を誘発し、慢性的な肩関節疼痛により競技をおこなうことができなくなってしまいます。このように肩関節内の骨衝突によって生じる微小外傷の蓄積は、野球選手の肩関節痛および投球能力障害をすすめることになります。
私たちの研究はこのような理論的背景をもとに未解明な肩関節内の骨衝突の発生機序について調査し、関節唇など肩甲骨関節窩の変性の程度を表す後方骨間距離や腱板組織が肩関節内に挟み込まれる程度を示した腱板組織面積値など新しい評価指標および治療開発に向けて日々取り組んでおります。
投球と肩関節の病態とは関連性があり、投球障害肩の理学療法治療を実践するために投球への理解を深めるための仕事をさらにすすめていきたいと考えております。
執筆者プロフィール
岩本 浩二(KOJI IWAMOTO)
東京保健医療専門職大学 理学療法学科 教授
専門領域:スポーツの機能解剖学、身体運動科学、運動器科学