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【研究発表】新たな電子顕微鏡試料の染色法を開発-安全性、コスト、扱い易さなどに優れた手法として期待-

本学作業療法学科の佐々木博之教授は、東京工科大学応用生物学部と東京慈恵会医科大学基盤研究施設との共同研究で、新たな電子顕微鏡試料の染色法を開発しました。

光学顕微鏡の染色剤として広く使用されているヘマトキシリンを鉛溶液との二重染色法に応用したもので、従来の酢酸ウランと鉛溶液の二重染染色法に代わる、安全性、コスト、扱い易さなどに優れた手法として期待されます。

本研究成果は、佐々木教授を筆頭著者・責任著者として5月16日に英科学誌Natureの姉妹誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

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【研究背景】
酢酸ウランを用いた生体試料の電子顕微鏡染色技法は、1958年に報告され、その簡便さと最適な染色結果によって、世界中の電子顕微鏡施設で使用されてきました。しかし近年、ウランは兵器用核物質として使用されることから、酢酸ウランを含めたウラン化合物の使用や入手、貯蔵、廃棄に関する国際的な規制が厳しくなりつつあります。こうした背景から、生物学的研究分野において同手法に代わる染色法が長く待望され、これまでもいくつか提案されていますが、いずれも効果的な代替手法には至っていません。

【研究成果】
佐々木教授らは、電子顕微鏡の超薄切片法における酢酸ウランの代替となる安全で取扱の容易な染色法を開発するため、市販の様々な光学顕微鏡用色素を検討しました。その結果、光学顕微鏡の一般的な染色剤として用いられているマイヤーヘマトキシリンと鉛溶液の二重染色でも、従来の酢酸ウラン溶液と鉛溶液の二重染色と同等の染色性を示すことがわかりました。さらに、電解放射型超高分解能走査型電子顕微鏡で観察した準超薄切片の後方散乱電子像でも、マイヤーヘマトキシリンと鉛の二重染色法は広領域かつ高画質での観察が可能であることが分かりました。

 

【社会的・学術的なポイント】
マイヤーヘマトキシリンは、診断用臨床試料や組織学用試料のパラフィン切片の染色に広く使われている色素溶液であり、市販品として低コストかつ安定的に供給されていることや、廃液も安全性が高いなどの利点があります。一方、酢酸ウランは、国際原子力機関による「電離放射線に対する防護及び放射線源の安全に関する国際基本安全基準」(BSS)において具体的な免責レベルが定められており、国際的にも新たな規制が法制化されつつあります。本研究成果から、マイヤーヘマトキシリンは、試薬の購入、取り扱い、使用、保管、廃液処理などの面で放射性物質である酢酸ウランを用いた染色法に代わる有用な手法になることが期待されます。

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