教員コラム
【教員リレーコラム】第11回 伯母治「慢性痛のリハビリテーション」
作業療法学科教員の伯母(うば)です。
私は慢性痛を抱えた患者さんに対するリハビリテーションに関わっております。
今回は、私が臨床現場で実践している慢性痛のリハビリテーションについてお伝えします。
痛みは「急性痛」と「慢性痛」の2つに大別されます。
急性痛は病気やケガの際に感じる短期間の痛みであり、
慢性痛は腰痛や肩こり、膝の痛みなどが3ヶ月以上続く長期間の痛みです。
調査によると、全国で約2,315万人が慢性痛に苦しんでいると言われています(※)。しかし、通院していない人や自己対処している人も多いのが現状です。
-
「痛みに関する大規模調査」(2010)ムンディファーマ
https://goodcycle.net/ijinet/viewFile.php?id=12096
慢性痛は、国際疼痛学会(IASP)で「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た感覚かつ情動の不快な体験」と定義され、典型的には3ヶ月以上持続する、または通常の治癒期間を超えて続く痛みとされています。
ヨーロッパで「魔女の一撃」と称される「ぎっくり腰」は、「痛みがなくなるまで動かさず安静にしよう」と考える人も多いかもしれません。
しかし、現在の世界的な共通認識では、発症後24〜48時間は安静にしますが、その後はゆっくりと身体を動かしたほうが早く回復するとされています。
痛みが慢性化する要因として、近年「心理社会的な要因」が注目されています。
例えば、腰の筋肉に少し張りがある程度の痛み(生物学的因子)があるとします。
その際、会社でミスをして上司に叱られる(社会的因子)と、気分が落ち込み、うつ状態に陥る(心理的因子)ことがあります。
このような心理社会的ストレスが出社の大きな負担となり、結果として痛みが悪化することがあります。
このように負の連鎖が痛みを悪化させる要因とされています。
痛みについて過度に考えることで、心理社会的な要因がさらにこじれ、痛みが増幅し、生活の質(QOL)や食事、着替え、入浴など日常生活で必要な動作などの日常生活動作(ADL)に支障をきたすようになります。
慢性痛に対処するためには、まず痛みの原因となる疾患がないか確認することが重要です。
専門医に相談し、隠れた病気がないかをチェックしてもらいましょう。その上で、リハビリを行います。
運動には大きく分けて4種類があります。これらをバランスよく取り入れることが理想的です。
|
慢性痛のリハビリテーションでは、適切な運動量を調整しつつ指導することはもちろん重要です。
そのうえで患者さんがより快適で充実した生活を送れるようにするために、患者さん自らが目標を設定し、それを達成するための支援として機能回復練習や心理状態の改善、社会参加を促進させるような関わりをもち、QOLの向上を目指します。
慢性痛のリハビリテーションでは、痛みの原因となる疾患を検査し、心理社会面的な要因を確認しながら、適切な運動の実践を指導していきます。慢性痛でお困りの方は、まずはかかりつけ医にご相談下さい。
痛みを抱えている人に限らず、体調管理には適度な運動が欠かせません。皆さんも日常生活に運動を取り入れ、健康管理に努めてください。
執筆者プロフィール
伯母 治(OSAMU UBA)
専門領域:身体障害の作業療法(回復期〜生活期のリハビリテーション)、慢性痛のリハビリテーション