教員コラム
【教員リレーコラム】第21回 武井圭一「『利き手を越える』学びのチカラ」
「左利きは直さなきゃいけない」って考えがあったのを知っていますか?
私は左利きで育ちました。今では利き手を尊重する社会になりましたが、幼少期には左手を使うことをよく止められていました。「右手で箸を持とうね」と言われても、子ども心に「なんで?」と思いながら、結局今でも左手で箸を使っています。
小学校に入って、文字を書く機会が増えると、自然に左手で書くようになりました。でも、1年生の終わり頃から始めた習字では、右手で筆を持つ必要がありました。お手本通りに、押さえや跳ね、筆の強弱を模倣するには、右手じゃないとうまくいかなかったのです。
お手本に近づけるように繰り返し練習するのは、まるで「絵を描いている」ような感覚で、苦労しながらも楽しかったことを覚えています。その結果、小学2年生の頃には、右手でスラスラと字が書けるようになって、書道大会で特選を受賞することができました。
リハビリテーションの分野でも、利き手を変えることは、脳が新しい神経パターンを学習するプロセスだと言われています。残念ながら、即効性はありません。習字を通じて、正しいフィードバックを受けながら何度も反復したことが、自然な適応を促す一因だったと思います。
そして、無理に強制されるのではなく、自分で納得しながら興味を持って取り組むことが、反復を支える継続力になり、最終的に大きな成果につながるのだと学びました。
この経験は今でも、共生社会やリハビリテーション、教育について考える上で大切な土台になっています。
学生の頃は、今の学びが将来どんなふうに役立つのか、不安になることがあるかもしれません。
でも、一つひとつの経験が、いつか思いも寄らない形であなたのチカラになります。未来の自分が、今のあなたの努力に感謝する日がきっと来るはずです。
執筆者プロフィール
武井 圭一(KEIICHI TAKEI)
理学療法学科 准教授・副学科長
専門領域:リハビリテーション科学